家を現金一括で買うか、住宅ローンを借りるか迷ってるんだけど、損しないのはどっち?
こんな悩みを解決するために、わかりやすく記事を書きました。執筆は相談実績15年以上の現役ファイナンシャルプランナー(FP)が担当しています。
住宅ローンには優遇措置があるので、現金一括で買うと損するんじゃないかと心配する人が多いんです。
FPの実務経験で得たエッセンスをギュッ!と凝縮。サクッと読み切れるボリュームにまとめたので、読めば わずか数分で「現金をフル活用して 賢く家を買う方法」がイメージできるでしょう。
家は現金一括より住宅ローンを借りたほうが得する!?
友人から「住宅ローン控除で税金が戻ってきた」なんて聞かされると、羨ましくなるわ。
結論から言うと、家は現金一括で買うより 住宅ローンを借りたほうが有利になりやすいです。
家を現金一括で買えるだけのお金があるのに 住宅ローンを借りれば、利息分だけ損をする。もし利息分が まるまる全額、税金で還付されたとしても損得ゼロだと思いますよね?
でも、実際は そうならない可能性が高いので、その理由を説明しましょう。
住宅ローン金利の低さは特別
住宅ローンって低金利のイメージがあるけど、なんでだろう?
金利競争のほか、国の施策も影響しています。なにしろ、家は生活の基盤ですから。
【低リスク】
他のローン(事業用ローン、無担保ローンなど)と比べて、住宅ローン債権が回収不能になるリスクは低い。融資対象に抵当権が設定されているため、住宅ローンの滞納が続けば、家や土地は銀行のものになる。(銀行と債務者の間に保証会社が介在しているケースも多い)
【競争原理】
預金金利が下がり、銀行の資金調達手段も多様化。さらに、金利変動リスクをヘッジする手法が増えたことも 低金利を後押しした。店舗を持たないネット銀行や、住宅ローンを専門で扱うモーゲージバンクの登場で、顧客獲得競争に拍車がかかっている。
【国の施策】
終戦直後の日本は焼け野原で、420万戸の住宅不足が発生。そこで国は住宅金融公庫を設立(昭和25年6月)し、住宅ローン業務を開始。その目的は「国民大衆が健康で文化的な生活を営むに足る 住宅の建設や購入に必要な資金を、長期・低利で融通する」であった。
2007年に独立行政法人 住宅金融支援機構が業務を引き継ぎ、現在に至る。主力商品は「フラット35」。基本理念は「住宅金融市場における安定的な資金供給を支援し、我が国の住生活の向上に貢献」である。
また、日本銀行の政策金利も影響が大きい
やっぱり、住宅ローンは特別なのね。
住宅ローンは、家や土地を担保にしたうえで、金融機関の厳しい審査をパスした人だけが利用できるんです。
あなたに「稼ぐ力」がなければ、住宅ローンを借りることはできません。したがって、就労収入がある退職までの期間に限られるのが原則。真面目に返済を続ける「信用力」も必要です。
一般的に、300万円くらいの少額融資でも、5~14%程度の金利が適用されるのに、住宅ローンでは数千万円もの大金を、わずか0.2~5%程度の金利で借してもらえます。まさに、ケタ違いだと思いませんか?
住宅ローンを借りて 時間を買う
いくら低金利でも、利息を払うことに変わりないよね…。
次は「その利息を払うだけの価値があるか?」という議論になります。
住宅ローンの価値は「時間を買う」こと。手元の現金一括で支払わずに、住宅ローンを借りるとどうなるでしょう?
【家の代金】今すぐ払う必要はない
返済期間にわたって、毎月返済すればいい。住宅ローン控除の恩恵を受けられる。
【手元資金】有効活用できる
お金に働いてもらって殖やせる。新NISAの恩恵を受けられる。
「住宅ローン控除適用の条件」
・控除を受ける年の合計所得が2,000万円以下であること
・取得した住宅の床面積が50m2以上、床面積の2分の1以上が自己の居住用であること
・10年以上の住宅ローンであること
・金融機関などの定められた機関からの借り入れであること(親族・知人からの借入金は対象外)
住宅ローンで払う利息より、資産運用で殖やせればいいんだね。
そのとおりです。条件をクリアできる最低利回りをシミュレーションしてみましょう。
【試算条件】
・年収600万円(扶養2人)
・新築物件(長期優良住宅)
・住宅ローン借入額:3,000万円
・借入期間:35年
・金利:1%(全期間固定)
・諸費用:77万円(融資手数料66万円、印紙税2万円、登録免許税3万円、司法書士報酬6万円)
・元利均等払、ボーナス返済なし、2024年1月より返済開始
住宅ローン利息額(13年間の合計) | 325万円 |
住宅ローン締結時の | 諸費用77万円 |
住宅ローン控除額(13年間の合計) | ▲225万円 |
合計金額 | 177万円 |
さて、現金一括3,000万円を元手に 13年間で177万円の利益を手にするには、どのくらいの利回りが必要でしょうか?
元金 | 3,000万円 |
運用期間 | 13年 |
年利 | 0.56% |
税引き前利益 | 226万円 |
税率(源泉分離課税) | 20.315% |
税引き後利益 | 180万円 |
年利0.56%って、かなり低いような気がする。
日本国債10年の利回りが0.61%(2023年12月25日 時点)。ほぼリスクを取らなくていいレベルですね。
新NISAの非課税制度を使えば、必要利回りは さらに下がります。まだ活用していない人は積極的に検討してみましょう。
長期優良住宅の住宅ローン控除期間は13年。14年目以降は税額控除の旨味が無くなりますから、(運用資金を充当して)全額繰り上げ返済してもいいですね。実際には、その時の運用成績を見ながら判断してください。
現金を家に投入するか迷ったら、資金効率で判断しよう
せっかく13年も運用できるんだから、もっと殖やせるといいな。
では、投資信託(参考値を適用)で運用した場合のシミュレーションを見てください。
投資対象(参考例) | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) |
元本 | 30,000,000円 |
運用期間 | 13年 |
想定リターン*1(設定来の参考値)年率 | 17.95% |
想定リスク*2(設定来の参考値)年率 | 23.29% |
予想資産額( | 運用成績が上位5%)600,105,604円 |
予想資産額(運用成績が上位 30%) | 268,669,047円 |
予想資産額(想定リターンどおり) | 256,563,306円 |
予想資産額(運用成績が下位 30%) | 122,380,328円 |
予想資産額(運用成績が下位 5%) | 53,571,174円 |
*1 想定リターンとは、運用対象が1年間でどのくらい上昇するかを想定したもの。
*2 想定リスクとは、運用対象で想定される収益(リターン)の変動(ブレ)の大きさ。想定リスクが大きいと、将来予想される 資産金額の変動(ブレ)も大きくなる。
・本シミュレーション結果は、想定したリターン・リスク値に基づく参考データを提供するものです。
・投資勧誘を目的としていません。
・将来の成果を読者にお約束するものではありません。
・手数料、税金等は考慮していません。
・弊社は、読者に生じた いかなる結果についても、責任を負いません。
投資だからリスクもあるけど、すごく夢がある試算だね。
損する可能性も含め、あくまで自己責任で判断しなければいけません。でも、魅力は充分ですね。
もし投資に挑戦するなら、元本割れする時期があっても、慌てないことが肝心。きっと13年という時間があなたに味方してくれるので、泰然として ゆっくり待ちましょう。
運用で資産が殖えるとは断言できないけれど、少なくとも自分が住む家はお金を稼いでくれません。つまり、家に投入するとお金が寝てしまうわけです。
住宅ローンと現金一括、どちらをチョイスするかは あなた次第。自分の適性を考えながら、ぜひ賢明な選択をしてください。
家を現金一括で買うなら注意して!メリットとデメリットを紹介
現金一括で買うときの注意点って あるのかしら?
意外な落とし穴がありますから、要チェックですよ。
現金一括で家を買うなら、事前に知っておいたほうが良いことがあります。後から気づいて後悔しないよう、きちんと納得してから契約手続きに進んでください。
現金一括のメリット
現金を一括で払うんだから、当然メリットもあるでしょ。
もちろんです。やっぱり、現金の強みは見逃せません。
・面倒くさくない
住宅ローンの手続きは手間がかかる。金融機関から求められる書類の多さに、辟易する人も多いはず。団体信用生命保険の審査では健康状態まで申告しなければならず、これらをすべて省けるのは嬉しい。
・スピード感がある
住宅ローンの審査には時間もかかるし、融資を断られたら 別の金融機関を探すところからやり直し。急いでほしくても、お金を借りる側から催促する術は無い。
・競合に勝てる
たとえば好立地のマンションや 掘り出し物の土地が売り出されたら、すぐに買い手がつく。売主からすれば、売り値を迅速に回収できる「現金一括」の客を優先するだろう。
・値引き交渉が有利
相続が理由で売りに出ている土地などは、売り手が早期決着を求めているケースもある。競合している買い手が住宅ローン利用者ばかりなら、値引き交渉を有利に進められるかもしれない。
・ムダな費用を払わなくて済む
住宅ローンの締結時にかかる諸費用や利息が一切不要になる。浮いたお金は、あなたの好きなように使える。
現金一括で家を買うのは、これから大きいお金を借りようとしている人にも向いてますね。
借りられる金額には限度がありますから、住宅ローンを借りてしまえば もうそんなに融資枠は残りません。近い将来に何か計画しているなら、「借りられる権利」を温存しておくのもアリです。
資産活用のご相談は、ふくろうの保険Naviにご依頼ください。FPが無料で、上手なお金の殖やし方をアドバイスをします。
現金一括のデメリット
現金一括のデメリットなんてあるのかしら?
抑えてほしいポイントがいくつかあります。一緒に確認していきましょう。
・団体信用生命保険の恩恵がなくなる
住宅ローンを借りると 団体信用生命保険で保障されるので、死亡や高度障害など不測の事態が起きたときは返済義務が免除される。いっぽう、現金一括で払ってしまえば 万が一のときでもお金は戻ってこない。(フラット35では「団体信用生命保険に加入しない」という選択もできる)
・家計の体力が落ちる
団体信用生命保険が発動するほどの事態に遭遇しなくても、大ケガをしたり 大病を患うかもしれない。カラダは元気でも、数年後に 勤め先の経営が悪化して収入が減少する可能性もあるだろう。だが、現金一括で払わずに お金を手元に温存しておけば、家計の緊急事態を乗り越えられる。
・住宅ローン控除を受けられない
先ほどのシミュレーションでも登場した、税金の優遇措置である住宅ローン控除。その年の年末時点における住宅ローン残高×0.7%が所得税から控除されるため、税負担の軽減効果は大きい。現金一括なら優遇は無し。
・税務調査の可能性がある
家を現金一括で買うと[お買いになった資産の、買い入れ価格などについてのお尋ね]という文書が、税務署から届くことがある。高額な資金の流れに対し、相続や贈与の有無などを確認するためだ。遅滞なく回答すれば問題ないが、税務署からのお尋ねに驚く人もいる。
住宅ローンを借りられない人の対処法
住宅ローンの審査に落ちたんだ…。コツコツ貯めて、現金一括で買うしかないのかな?
融資を否認された理由によって、対処法が変わります。
・健康状態が悪い
団体信用生命保険への加入が義務付けられている住宅ローンでは、持病があって薬を処方されているとお金が借りられないこともある。健康診断で再検査の指摘を受けてる人も要注意。その点、ワイド団信なら引受基準が緩和されているので、承認される確率が高まる。それでもダメなときは、団体信用生命保険不加入でも融資してもらえるフラット35を選ぼう。
・融資限度額を超えている
金融機関では、年収に対する融資額の上限が定められているので、それより多額の住宅ローンは借りられない。この場合、クレジットカードにキャッシング枠が設定されている人は解約するといい。キャッシング枠は、いつでもお金を借りられるため、設定金額分だけ融資上限額が引き下げられてしまうからだ。
・信用情報に難がある
クレジットカードやローンの支払いを延滞中の人はNG。過去に延滞歴がある場合、数日程度の遅延ならOKにする金融機関が多い。いっぽう、2か月超の延滞歴がある人は金融事故扱いの記録が消えるまで待つしかない。なお、この期間は5年と言われている(非公表)。
住宅ローンを借りられないからといって、現金一括で家を買える人は稀でしょう。しかし、資金力のある親なら お金を貸してくれるかもしれません。
だたし、「親からお金を借りれば金利がかからない」と考えるのは早計。その場合は お金をもらったことになり、贈与税に気をつけないといけないからです。検討するときは、お近くの税務署に相談してみましょう。
まとめ:家に現金一括はもったいない
過去に羽振りの良かった人が、その後 収入が激減してFP相談にいらしゃることがあります。なかには、現金一括で家を買った方もいて、とても後悔されていたのが印象的でした。
低金利で何千万円もお金を借りられるのは住宅ローンくらいです。しかも、住宅ローン控除などの優遇措置もあって、至れり尽くせり。手元に現金があるからといって「住宅ローンを借りられる権利」を簡単に手放してしまうのはやめましょう。
家を現金一括で買うのか、それとも住宅ローンを借りるのか。決めるのは、本記事でお伝えしたことを きっちり検討してからでも遅くありません。
最後にもういちどポイントを復習してください。
・住宅ローンの金利の低さは特筆に値する
・利息を払って時間を買う。その価値があれば、住宅ローンを借りよう。
・現金一括と住宅ローンを選べるなら、資金効率で判断する。
・家や土地を現金一括で買うなら、強みを充分に活かすべし。
・まとまった現金が手元からなくなるデメリットは大きい。
・親からお金を借りるときは贈与税に注意。
最後まで読んでくださって ありがとうございます。現金を有効に活用して、素敵なマイホームで豊かに暮らせるといいですね!
【執筆者:内田 正雄(Uchida Masao)】
ファイナンシャルプランナー(FP)|住宅ローンアドバイザー|宅建士(資格者)|証券外務員一種
タヌキと出会うのが珍しくない、のんびりした郊外に住む ファイナンシャルプランナー(FP)。横浜国立大学を卒業後、ミサワホームに入社。マイホーム取得という大きな買い物をサポートするためにFP資格を取得。ライフプランを作る重要性に目覚め、住宅ローンの有料相談を展開する保険代理店などで多くの経験を積んだ。豊かなライフスタイルにつながる情報を発信中。